「ゲイシャ」、「ブルボン」、「ティピカ」など、コーヒー愛好家に広く知られているアラビカ種の主要な品種を深掘りしてみましょう。本記事では、これらの品種が持つ独特の風味と香りを紹介し、アラビカ種の魅力を探ります。
アラビカコーヒーとは?
アラビカ種(学名「コフィア・アラビカ」)は、エチオピアのアビシニア高原に原生し、15世紀から17世紀にかけて広がりました。日本で流通しているコーヒーの多くはアラビカ種で、その味と品質から全世界のコーヒー生産量の60%から70%を占めています。
カネフォラ種やリベリカ種など他の種類と比べても、アラビカ種の方が多く栽培されています。また、200以上の異なる品種が存在し、それぞれにユニークな風味があります。
アラビカ種の特性
アラビカ種の木は、ジャスミンに似た香りを放つ白い花を咲かせます。豆は楕円形で平たく、成熟するまで約9ヶ月かかります。栽培は非常に繊細ですが、適切な管理を行うことで高品質のコーヒー豆を得ることができます。
アラビカ種の風味:フルーティな酸味が特徴
アラビカ種の風味は、栽培地域や品種により異なりますが、一般的にフルーティな酸味が豊かな味わいを形成します。特にティピカ種やブルボン種のような古くからある品種は、風味と香りの面で優れています。
アラビカ種の代表的な品種一覧:16種の紹介
1.ゲイシャ
ゲイシャ種は、その香水のような甘く爽やかな香りと、アールグレイやジャスミンのお茶を思わせる華やかな風味で知られています。さらに、オレンジやグレープフルーツの柑橘系の酸味や、チョコレートやハチミツのような甘さが感じられます。
エチオピア原産のこの種は、ゲシャ地域から名前がつけられました。樹木は高さが4mにもなり、栽培は難しいとされています。2004年にパナマのエスメラルダ農園が国際品評会に出品した際、その風味が高く評価され、「ゲイシャショック」として世界的に有名になりました。
アラビカ種の中で最も古くからあるティピカは、多くのコーヒー品種の基となっています。クリアな酸味と顕著な甘さが調和し、味わい深いコーヒーを楽しむことができます。
現在、純粋なティピカ種100%のコーヒー豆を見つけるのは珍しいですが、この品種は多くの品種改良に影響を与えて広がっています。
3.ブルボン
ブルボン種は、リッチな甘みと強いコクが特徴で、その深い風味が多くの人に愛されています。この品種はインド洋のブルボン島(現レユニオン島)で発見されたティピカの変異種です。ティピカに比べて丈夫で生産量が多い品種です。この種には果実が黄色くなる「イエローブルボン」と呼ばれる品種も含まれます。
4.アマレロ
「イエローブルボン」とも呼ばれるアマレロは、ポルトガル語で「黄色」を意味します。ブルボンの変種であり、成熟すると果実が黄色くなるのが大きな特徴です。甘みと香りが豊かで世界中のコーヒー愛好家から高評価を得ていますが、栽培には手間がかかります。
5.スマトラ
スマトラ種は、マイルドな酸味と深みのあるコク、独特の苦味が特徴です。意外にも後味は清涼感があります。この品種は、インドネシアのスマトラ島で特に有名で、ティピカ種の一つとされています。生産量も安定していて、「ストロング・ティピカ」とも称されています。
6.カトゥーラ
1915年にブラジルで発見されたカトゥーラは、ブルボン種の変異種です。その酸味と渋みが特徴的で、ブルボンに比べて小さくて密集した樹形のため栽培スペースを効率的に使えるため多くの農園で選ばれています。直射日光にも強く、豊富な収穫が期待できる品種です。
ムンドノーボ種は、柔らかな甘みとナッツやカカオの風味が見事にバランス良く、適度な苦味が加わることで味わいが一層引き立ちます。この品種は1943年にブラジルのムンドノーボ地区でブルボン種とスマトラ種が自然交配して誕生しました。
非常に丈夫で環境の変化に強い特性を持ちますが、樹高が高いため栽培や収穫が難しく、中米ではあまり普及していません。ブラジルではこの品種を基にした多くの改良種が栽培されています。
8.カトゥアイ
カトゥアイ種は、ムンドノーボの課題を克服するために開発され、カトゥーラとムンドノーボを掛け合わせた結果、約20年の研究の末に誕生しました。小さながらもムンドノーボの環境適応力を受け継いでいます。
ムンドノーボの高い樹高問題を解決したカトゥアイは、特に中米で広く栽培され、ホンジュラスではアラビカ種の半分をこの品種が占めています。
9.パーカス
パーカス種は1956年に発見されたブルボン種の変異種で、ローストナッツの甘みと香ばしさに明るい酸味が加わる爽やかな味わいが特徴です。豆は小粒で、葉が大きく、コーヒーチェリーの成熟が早いため、高い生産性を持ちます。暑さや乾燥に強く、砂質の土壌や低地でも育つため、栽培の適応範囲が広いです。
10.マラゴジッペ
マラゴジッペ種はティピカ種の変異種で、柔らかいコクと繊細な酸味が特徴です。フルーティな風味があり、浅煎りでその特性を最も引き出すことができます。
コーヒーチェリーが非常に大きいため「エレファント・ビーン」とも呼ばれ、その大粒な豆は一部地域で特に人気がありますが、収穫は難しく生産性は低いです。
11.パカマラ
パカマラ種は「パーカス」と「マラゴジッペ」を交配して誕生しました。この品種はパーカスの早熟性とマラゴジッペの大粒特性を兼ね備えています。エルサルバドルの国立コーヒー研究所で25年の研究を経て開発されたパカマラは、大粒で、軽い酸味と甘みが調和した滑らかでバランスの良い風味を持ちます。生産地によっては花やスパイスのノートも感じることがあります。
「ハイブリッドティモール」はアラビカ種とカネフォラ種(ロブスタ種)を交配させた品種です。このコーヒーはまろやかなコクとクリアな苦味が特徴で、独特なフレーバーを持っています。
13.カティモール
カティモールはハイブリッドティモールとカトゥーラを交配して開発された品種です。この品種はハイブリッドティモールの速い成長率と高い生産性、カトゥーラの低木性と日光耐性を継承しています。
緊密な植え付けが可能な小さなサイズで、栽培が容易です。カネフォラ種の特性を受け継いでいて、高地で適切に管理された栽培環境では、そのユニークな風味を引き出すことができます。
14.バリエダコロンビア
「バリエダコロンビア」は、ハイブリッドティモールとカトゥーラを交配させてコロンビアで開発された品種です。この品種はカネフォラ種の特性が強く出るため、特有の雑味が感じられることがありますが、数度にわたる改良を経て、現在では風味豊かで品質の高いコロンビア産コーヒーが市場に流通しています。
15.カスティージョ
カスティージョ種は、バリエダコロンビアの代替品として開発されたハイブリッド種で、ハイブリッドティモールとカトゥーラを掛け合わせた結果生まれました。この品種は収穫量が非常に高いことが特長です。品種改良は5世代にわたり行われ、近年では品評会でも高い評価を得ています。
16.SL28、SL34、ルイル11
これらはケニア独自の高級品種群として知られ、ケニアのコーヒー研究所で選ばれた品種です。ケニア国内で主に栽培される品種はSL28、SL34、ルイル11です。
SL28
SL28はタンザニア原産のタンガニーカ種を基に改良された品種で、乾燥に強い特性を持ちます。この品種はジューシーな柑橘類の酸味とカシスやベリーの濃厚な風味が特徴です。ブルボン系の血統を引いているため、味わいは非常にリッチです。
SL34
SL34は高地での栽培に適しており、雨量の多い地域でも育ちやすい品種です。大粒の豆が特徴で、SL28よりも豊富な収穫が期待できます。この品種の酸味は強い一方で、優しい苦味とコクがバランスよく調和しています。
ルイル11
ルイル11はSL28やSL34などの複数の品種に加えてカティモールを掛け合わせて開発されたハイブリッド種です。カティモールの遺伝子を受け継いでおり収穫量が多いです。
ブルボン種の遺伝子を含むため、味わいは良好で、酸味と苦味がマイルドに調和していますが、ケニア特有の強い香りは控えめです。
アラビカ種のカフェイン含有量
アラビカ種のカフェイン含有量は0.8%から1.4%です。対照的に、カネフォラ種はカフェイン含有量がアラビカ種の約2倍あります。
ロブスタ種はアラビカ種と比較して湿度の高い環境にも適応できるため、特に標高300mから800mの低地で栽培されることが多いです。このため、アジアの熱帯地域での栽培が一般的です。
アラビカ種と対照的に、ロブスタ種は収穫量が多く、主にインスタントコーヒーや缶コーヒーの原料として使用されています。
アラビカ種とロブスタ種の生産比率の変動
アラビカ種はブラジルが世界最大の生産国であり、世界全体のアラビカ種生産量の大部分を占めています。一方で、ロブスタ種はベトナムが主要な生産国であり、世界のロブスタ種生産量の大部分を担っています。
これまでアラビカ種とロブスタ種の生産比率はおおよそ70:30で推移していましたが、近年はロブスタ種への需要が増加しており、生産比率は60:40へとシフトしています。この変化はロブスタ種の高収穫量がもたらすコストの利点が影響しています。
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